自宅バリアフリー化リフォームの罠?失敗例から将来の施設移転に備えよ!
「やっぱり住み慣れた自宅が一番!将来介護が必要になっても在宅がいいなぁ。」
自宅に手すりやスロープだけでなく、トイレや浴室もバリアフリー化、車椅子、動線の改良、介護用エレベーターまで完備するなど、大掛かりなリフォームを実施。これであとは、同居家族のサポートや、在宅の介護サービスがあれば安心!なのでしょうか?
体力の衰えに伴い、そのような当初のその思いは変わり、「やっぱり介護施設のほうが、安心して暮らせて良さそうだなぁ。」と感じるようになるかもしれません。また、本人の意向だけではなく、配偶者が入所を希望したり、介助してくれている同居家族にもこれ以上負担をかけたくないと思うことも考えられます。
では、途中で介護施設に入居することに変更しても、経済的に大丈夫なのでしょうか?バリアフリーリフォームに大金を投資して資産があまり残っていない場合、民間の施設に早期から入るには、経済的に厳しいかもしれませんね。
バリアフリー化リフォームをする場合、一生安心して暮らしていくには、どのように資産を配分するとよいのでしょうか?
・在宅介護のためのバリアフリー化リフォームの進め方(ペース)
・高額なリフォームをする場合の前提
在宅介護なら高額なバリアフリー化も?
- バリアフリー化リフォームは、最小限から始めることをお勧めします。後で本人が施設に移りたいと思った時の資金余力を確保するためです。途中で施設入居に変更する可能性がある場合、将来の家計も見通して予算を決めましょう。
- 高額のリフォームをする場合、本人や配偶者の意向、家族の支援体制を長期で維持できるのかを見通すことが前提です。
高齢者の在宅状況と希望は?
高齢者はどれくらい在宅で暮らしているのでしょうか?
国土交通省のサービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料「高齢者の住まいに関する現状と施策の動向」」によると、次の引用のように、多くの高齢者が(しかも、多くの要介護者も)が在宅をしています。
◯ 高齢者の9割以上は在宅
出典:「第6回サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料「高齢者の住まいに関する現状と施策の動向」」(国土交通省) (
→ 第1号被保険者3,588万人のうち3,486万人(約97%)が在宅(居住系サービスを含む)
◯ 要介護の高齢者も約8割が在宅
→ 要介護認定者690万人のうち588万人(約85%)が在宅介護(居住系サービスを含む)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001464799.pdf、2023年6月3日アクセス
)
また、同資料によると、次の引用のように、介助の必要性が高くなるとともに、自宅より施設等で介護を希望する人が増加する傾向があります。
○日常生活において介護を必要とする程度別に一人暮らし高齢者の希望する介護場所をみると、介助の必要性が高くなると、「現在の自宅」での介助を希望する人が減少し、介護施設やケア付き住宅でも介護を希望する人が増加する。
出典:「第6回サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料「高齢者の住まいに関する現状と施策の動向」」(国土交通省) (https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001464799.pdf、2023年6月3日アクセス
)
やはり今は在宅で長く介護を受けようと思っていても、将来的には施設に入居したくなる可能性も考えておいたほうが良さそうですね。
では、当初からバリアフリーリフォームを実施した場合、その規模により、将来の家計への影響はどうなるのでしょうか?この記事では次のシナリオの設定条件で、シミュレーションしてみます。
シミュレーション
〜バリアフリー化リフォームの仕方で将来の家計は?〜
シナリオの設定条件
- 家族条件
家族条件 | 歳(現在) | 生計から外れる |
夫 | 56 | 100歳で死亡 |
妻 | 53 | 100歳で死亡 |
第1子 | 26 | 23歳で独立済み |
第2子 | 23 | 23歳で独立済み |
- 76歳以降の生活・介護関連費用
リフォームや生活費、施設入居の条件を次のとおりとします。最終的にはどのケースでも夫88歳以降で施設に入居しますが、それまでの間、リフォームや施設にどのように費用をかけるのかで場合分けしています。
費用項目 | 年齢 | ケース1 | ケース2 | ケース3 |
リフォーム | 夫76歳 | 1200 | 1200 | 100 |
生活費 | 夫79歳-88歳 妻76歳-85歳 | 190 (在宅) | 48 (サ高住の費用に計上されない分) | |
サ高住 (一時金) | 夫79歳 | 0 (入居せず) | 20 | |
妻76歳 | 20 | |||
サ高住 (年間固定費) | 夫79-87歳 | 144 | ||
妻76-87歳 | 144 | |||
有料老人ホーム (年間固定費) | 夫88-90歳 | 240 | ||
妻88-90歳 | 240 | |||
特養 (年間固定費) | 夫91-100歳 | 144 | ||
妻91-100歳 | 144 |
※この表では夫56歳時点の現在価値で表示しています。
- その他の詳細データはこちらを参照
1. 高額リフォームで長く在宅
ではまず、高額なリフォーム(※)を実施し、長期で在宅で過ごせたケースについて、シミュレーションしてみます。この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
※部分的に手すりやスロープを付けるだけでなく、トイレや浴室もバリアフリー化、車椅子で移動できるように動線も改良、介護用エレベーターまで完備するなど、大掛かりなリフォームを実施した場合を想定します。
最終的には施設に入居することになっても、これだけ長期で在宅で過ごすことができれば、十分にバリアフリーリフォームをした甲斐があり、将来の家計を維持できそうですね。
2. 高額リフォーム後にすぐ施設入居
高額なリフォームを実施した後、しばらくして、「このまま体力が衰えていき、家族に負担をかけたくないな・・・。」「夫婦での老々介護は先が思いやられる!」と感じ始めら、どうしますか?
ここでは、夫76歳で高額なリフォームをして3年後、夫婦で早い段階から介護施設に移ろうと方針変更したケースについて、シミュレーションしてみます。この場合、将来の家計はどうなるのでしょうか?
バリアフリーリフォームに大金を使ってしまったため、その後、長期で施設で暮らしていこうとすると、資金ショートしてしまいますね。こんなことならバリアフリーリフォームに高額な費用をかけなければよかったと後悔することでしょう。
3. 低額リフォーム後にすぐ施設入居
では、夫76歳で最小限のリフォーム(※)にとどめ、当面様子を見てみましょう。ここではケース2と同様に、リフォームしてから3年後、夫婦で介護施設に移ろうとしたケースについて、シミュレーションしてみます。この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
※部分的な手すりやスロープの導入のみとした場合を想定します。
リフォームを最小限に抑えたことで、その後、介護施設に移るための資金余力も残すことができ、その後の希望の変化に応じて融通を利かせることができますね。
まとめ
当初は長期で在宅で暮らしていこうと決めていた場合でも、その後の家庭状況や健康状態、本人や配偶者の意向、家族への気遣いなどにより方針転換して、施設に移りたくなることもあるでしょう。その可能性を考えると、当初から高額なバリアフリー化リフォームを実施するのはハイリスクですね。まだ比較的自立できているうちは、最小限のバリアフリー化リフォームから始め、将来の融通が効くように資金余力を残しておくことをお勧めします。
とはいえ、個人の価値観や諸事情により、どうしても高額なバリアフリー化リフォームを優先せざるを得ないケースもあります。その場合、本人や配偶者の意向、家族の支援体制を長期で維持できるのかを慎重に判断するとともに、後で急に施設に入居することになってから慌てないように厳しく見積もり、対策を考えておくことをお勧めします。生活費、子への資金援助、公的支援、投資、保険、節税、介護施設の選択など、様々な面での見直し方法がありますので、総合的に見直すと良いでしょう。