親が施設入所後は空き家!ベストな売却のタイミングは?
「思い出のたくさん詰まったマイホームを手放すなんて嫌だ!」
体力が衰えてきたので施設への入居を決心したものの、空き家になってしまうマイホームをすぐに売る気にはなれない。長生きした場合には最悪、売ってでも施設費用を捻出する覚悟はしているが、幸い当面の施設費用は手持ちの現金で賄えそうだ。
というような場合、マイホームの売却を先延ばししても問題ないのでしょうか?
確かに思い入れのあるマイホームだからこそ、損得だけでは済まず、売却の決断は難しいかもしれません。また、売り急いで買い叩かれてしまうのも困りますね。しかし、売却計画もしないまま何となくズルズルと先延ばししたら、どうなってしまうのでしょうか?
人が住まなくなった建物はどんどん傷み、不法投棄されたゴミによる悪臭が漂ったり、庭の雑草がボーボーに生え、害虫や野良猫の温床になるなど、近隣にも迷惑になってしまいかねません。そうならないために管理サービスなどを利用すれば、その分の維持費用もかかります。
さらに、売却のタイミングにより、大きな税金がかかってしまい、手取りが減ってしまうこともあります。
その結果、施設費用を捻出しきれなかったら困ってしまいますよね。
大切なマイホームを資産として有効活用するために、売り時をどのように考えればよいのでしょうか?
・親が施設に入所後、実家が空き家となっている。
・すぐには売りたくないが、いつかは売らなければと思っている。
・売却を先延ばしし、ベストなタイミングを逃してしまわないか不安。
この記事では将来の金融資産残高の推移をシミュレーションすることで、これを検証します。
そうすることで、金融資産残高をプラスに維持できるように売却タイミングを調整できます。
ベストな売却のタイミングは?
税制の優遇(3000万円特別控除)を受けられる期間内に、じっくりと計画的に売却することをお勧めします。
売却のタイミングを間違えると?
- 売り急ぎ過ぎては買い叩かれるおそれがある。
- のんびりしすぎては税制の優遇(3000万円特別控除)を受けられなくなる。
施設に入居後の空き家の現状
「令和元年空き家所有者実態調査」(国土交通省)のデータを加工して作成した次の表によると、「老人ホーム等の施設に入居」が理由で住まなくなったケースにおいて、利用現況は次のようになっています。
利用現況 | n | 老人ホーム等の施設に入居したケース | |
割合 (全理由を100%) | n * 割合 | ||
総数 | 3598 | 5.9% | 212 |
買い手を探している | 478 | 6.3% | 30 |
借り手を探している | 168 | 7.7% | 13 |
: | |||
取り壊し予定のため利用していない | 425 | 8.0% | 34 |
: | |||
転勤、入院などで居住者が長期不在だが将来戻る予定のため物置として利用 | 87 | 6.9% | 6 |
上記以外の物置として利用 | 847 | 4.4% | 37 |
「令和元年空き家所有者実態調査」(国土交通省) (※)のデータを加工して作成 |
※https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf
注目すべきは、施設に入居して空き家になっても、「買い手を探している」方ばかりではない点です。たとえ住まなくても、売却はしたくないという強い思いのある方もいるのではないでしょうか?
また、同調査のデータを元に作成した次の表によると、「老人ホーム等の施設に入居」が理由で住まなくなったケースにおいて、腐朽・破損がある状態が多くを占めています。
腐朽・破損の状態 | n | 老人ホーム等の施設に入居したケース | |
割合 (全理由を100%) | n * 割合 | ||
総数 | 3598 | 5.9% | 212 |
屋根の変形や柱の傾きなどが生じている | 846 | 5.2% | 44 |
住宅の外回りまたは室内に全体的に腐朽 破損がある | 30 | 10.0% | 3 |
住宅の外回りまたは室内に部分的に腐朽 破損がある | 1175 | 7.1% | 83 |
腐朽 破損なし | 1348 | 5.4% | 73 |
「令和元年空き家所有者実態調査」(国土交通省) (※)のデータを加工して作成 |
※https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf
老人ホーム等の施設に入居後、売る予定もないまま管理が行き届かないと、腐朽・破損が進行することも懸念されますね。
シミュレーション
〜売却タイミングでどう変わる?〜
では、施設に入居して空き家になったマイホームを売却するタイミングにより、手取りがどのように変わり、将来の家計にどう影響するのか、次のシナリオの設定条件でシミュレーションしてみます。
シナリオの設定条件
- 家族条件
家族条件 | 歳(現在) | 生計から外れる |
夫 | 56 | 100歳で死亡 |
妻 | 53 | 100歳で死亡 |
子どもは既に独立し、生計外。
- 施設への入居条件
- 夫79歳、妻76歳以降、同時に同じ施設に入居。
- 施設の条件(種類、費用、移住など)は次の表のとおり。
サービス付き高齢者向け住宅(一般型) | |||
費目 | 万円 | 夫年齢 | 変動率(%) |
敷金 | 20 | 79歳 | 1 |
年額(家賃、他) | 156 | 79-90歳 | 1 |
有料老人ホーム(介護付) | |||
費目 | 万円 | 夫年齢 | 変動率(%) |
入居一時金 | 0 | 91歳 | 1 |
年額 | 264 | 91-93歳 | 1 |
特別養護老人ホーム | |||
費目 | 万円 | 夫年齢 | 変動率(%) |
入居一時金 | 0 | 94歳 | 1 |
年額 | 144 | 94-100歳 | 1 |
※夫の年齢で記載しているが、妻も同時に同じ費用で入居。
※夫56歳時点の物価水準で表示。
- マイホームの条件
- 売却時の査定額は3400万円。
- 売却時に老朽化した建物の解体費用等もかかり、譲渡費用は合計400万円。
- 夫が先代からの相続により取得した住宅であり、購入時の金額が不明。
そのため、譲渡所得は概算取得費(売った金額の5%)をもとに計算。 - 各ケースの売却に伴う収支項目と、手取り額は次の通り。
- ケース1では売り急ぎ、売却価格が査定額より低い。
- ケース2では売り遅れ、3000万円特別控除を適用不可。
収支項目 | ケース1 | ケース2 | ケース3 |
売却価格 | 2600 | 3400 | 3400 |
譲渡費用 | 400 | 400 | 400 |
概算取得費(5%) | 130 | 170 | 170 |
譲渡益 | 2070 | 2830 | 2830 |
3000万円特別控除 | 適用可 | 適用不可 | 適用可 |
課税譲渡所得 | 0 | 2830 | 0 |
所得税(15%) | 0 | 424.5 | 0 |
住民税(5%) | 0 | 141.5 | 0 |
手取り(税引後) | 2070 | 2264 | 2830 |
・数字の単位は「万円」 ・単純化のため、復興特別所得税は考慮なし。 |
- その他の詳細データはこちらを参照
1. 売り急ぎ、買い叩かれ
ではまず、施設入居時(夫79歳、妻76歳)に売ろうとしたケースについてシミュレーションしてみます。売り急いだ結果、売却価格は残念ながら2600万円と、査定額3400万円より大幅に下がってしまったものとします。
この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
大切なマイホームを売却したにもかかわらず、長生きした場合には、90代に資金ショートしてしまいますね。マイホームを資産として十分には有効活用できませんでした。
2. 売り遅れ、3000万円特別控除ナシ
では次に、施設に入居(夫79歳、妻76歳)後、マイホームに住まなくなって4年目(夫83歳、妻80歳)で売却した場合、どうなるでしょうか?
施設に入居した当初は、思い入れのあるマイホームを売ってしまうのが名残惜しく、具体的な計画もないまま売却を先延ばしにしてしまいました。その後、施設暮らしに慣れてきたこともあり、ようやく決心がつき、4年目にマイホームを売却したものとします。(今回は売り急がず、査定額3400万円で売れたものとします。)
この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
なんと、このケースでも90代に資金ショートしてしまいました。
その大きな要因として、売り遅れたがために、3000万円特別控除(「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」)を受けられなかったことが挙げられます。
つまり、この特例の適用条件の一つである「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る」ことを満たせず、600万円近くもの大きな税金がかかってしまったのです。
3. 計画的な売却で3000万円特別控除アリ
では最後に、3000万円特別控除(「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」)を受けるべく、施設入居時から計画的に売却を進め、3年目(夫82歳、妻79歳)で期待どおり査定額3400万円で売却できたケースについて、シミュレーションしてみます。この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
計画的に売却を進めたおかげで、ケース1のように売値を妥協することもなく、また、3000万円特別控除を受けられたおかげで手取りがケース2より600万円近く増えました。その結果、100歳まで家計を維持できそうですね。
まとめ
施設に入居して、住まなくなったマイホームでも、愛着があり簡単には手放したくないかもしれません。そんな大切なマイホームですから、ケース1のように納得のいかない額で売り急ぐのは不本意ですよね。一方、ケース2のように売り時を逃したばかりに、税制の優遇を受けられず、最終的な手取りが減ってしまう事態も避けたいでしょう。
であれば、ケース3のように税制の優遇を受けられる期間内に売却する計画をしてはいかがでしょうか?当面の施設費用を手持ちの現金で賄えるのであれば、必ずしも施設の入居と同時に売り急ぐ必要はなく、期間内であれば優遇を受けられるので、それなりに心の準備期間も持てるでしょう。もちろん、思い立ったときにすぐに期待する価格で売れるとは限りませんので、施設への入居と合わせて、早期に売却計画をしておくことをお勧めします。
とはいえ、個人の価値観や諸事情により、どうしてもマイホームの売却を先延ばしせざるを得ないケースもあります。その場合、施設や医療・介護の費用が不足してから慌てないように厳しく見積もり、対策を考えておくことをお勧めします。施設の選択や、本当に早期から施設に入居するのが良いのか、当面は訪問介護・通所介護などの方法を取れないのか、など、様々な面での見直し方法がありますので、総合的に見直すと良いでしょう。