転勤で持ち家どうする?売却・維持費・賃貸・住宅ローンの課題と選択肢

転勤が決まったとき、「持ち家をどうするべきか」という大きな悩みに直面します。
売却すれば引っ越し後の生活はスムーズになりますが、希望通りの価格で売却できないリスクもあります。一方、賃貸に出す場合は期待通りの収益が得られるのか、空き家リスクや維持費も心配です。単身赴任すれば住居費が二重にかかる上に、家族との距離も課題になります。
この記事では、「売却」「賃貸」「維持」「単身赴任」の選択肢を比較し、それぞれのメリット・デメリットとともに、税金や家計への影響、注意点もわかりやすく解説します。
転勤後も安心して生活していくために、最適な選択肢を見つけましょう。
・転勤時の持ち家の最適な選択肢の考え方
・売却・賃貸・維持のメリット/デメリットと注意点
・税金や家計への具体的な影響
転勤時の持ち家問題とは?
転勤が決まったとき、持ち家の扱いは大きな課題となります。
住宅ローンを返済中の場合、そのまま維持するのか、それとも売却や賃貸に出すのか、決断を迫られることが多いでしょう。税金の負担や、転勤先の住居費用、家族の生活環境の変化なども含め、家計や生活全体に大きな影響を及ぼすからです。
転勤が一時的なものか長期的なものかによっても、最適な対応は変わるため、慎重に検討する必要があります。
転勤時の持ち家!対応の選択肢は?
転勤時の持ち家をどうするかの選択肢には、次のような対応があります。
- 売却する
- 賃貸に出す
- 空き家のまま維持する
- 単身赴任する(家族が持ち家に残る)
これらの選択肢が抱えるメリットとデメリットを理解し、状況に応じて最適な判断をすることが重要です。
売却する
持ち家を売るメリットとデメリットについてまとめます。
売却のメリット
- 家を現金化できる。
売却で得た収益により、住宅ローンを完済したり、新居の費用に当てたりできる可能性があります。 - 維持費の負担がなくなる。
固定資産税・都市計画税や管理費、修繕費などのコストがなくなります。 - 空き家リスクを回避できる。
空室による劣化や防犯上の問題、近隣とのトラブルを回避することができます。
売却のデメリット
- 思い入れのある家を手放す心理的負担
家族の思い出が詰まった家や、頑張って働いて購入した家を売却することに抵抗を感じる方も多いでしょう。 - 売却価格の不確実性
市場のニーズによっては希望通りの価格で売却できない可能性があります。特に、転勤のバタバタの中で売り急ぐと、足元を見られるリスクもあります。 - 売却手続きの手間
不動産会社への相談、査定、売買契約などの手続きには時間と労力がかかります。
賃貸に出す
賃貸に出すメリットとデメリットについてまとめます。
賃貸のメリット
- 家賃収入を得られる。
住宅ローンの返済や維持費に当てることができます。 - 将来的に戻る場所を確保できる。
帰任後に戻って住む予定がある場合、家を手放さずに済みます。
賃貸のデメリット
- 借主や近隣とのトラブル
家賃の滞納や、契約違反、迷惑行為などのリスクが考えられます。 - 借り手が見つからない可能性
空室になり家賃収入を得られない可能性があります。家賃収入を維持費やローン返済に当てることを期待している場合は要注意です。 - 管理の手間や費用
家の管理や入居者対応の手間がかかります。また、これらを不動産会社に依頼する場合でも管理費がかかります。
帰任後に戻って住む場合の注意点
帰任後に戻って住む場合、契約の内容によっては賃借人に明け渡してもらえるとは限りません。建物の賃貸借契約には次の種類がありますが、確実に明け渡してほしい場合には、定期借家契約が候補になります。
- 普通借家契約
賃借人が契約の更新を請求でき、貸主が拒絶するには正当事由が必要であるタイプの契約。 - 定期借家契約
定めた期間が満了した時に契約が終了する(更新しない)タイプの契約。ただし、あらかじめその旨を書面を交付して説明することや、期間満了の1年前から6か月前までの間に契約終了の通知が必要なことなどに注意が必要です。
空き家のまま維持する
空き家のまま維持するメリットとデメリットについてまとめます。
空き家のまま維持するメリット
- 手続きが少ない。
賃貸借契約や売却の手続きに比べて手間が少なくて済む。 - プライベートな空間を維持できる。
転勤後の住居に持って行く必要が無い家具・家財を置いておくことができ、他人の手垢もつきません。
空き家のまま維持するデメリット
- 固定資産税や維持費が発生
誰も住んでいなくても固定資産税・都市計画税(場所による)や、管理費、修繕費の負担はかかります。 - 空き家による劣化やトラブル
人が住まない家は換気されず、劣化が進行することが懸念されます。また、戸建ての場合は雑草や害虫により近隣に迷惑をかけるおそれもあります。
単身赴任する
空き家のまま維持する(家族が持ち家に残る)ことのメリットとデメリットについてまとめます。
単身赴任するメリット
- 家族の生活環境を維持
家族の生活環境を変えずに済み、子どもの転校の負担も避けられます。 - 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用
一定の条件のもとで手続きをすることで、住宅ローン控除の適用を受けられることがあります。
参考:「No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」(国税庁、タックスアンサー)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1234.htm
単身赴任するデメリット
- 生活費が二重にかかる。
単身赴任先の住居費や生活費が加わり、家計負担が増します。 - 家族との時間が減る。
心理的な距離やコミュニケーション不足が生じる場合があります。
転勤時の選択肢の判断ポイント
転勤時の持ち家をどうするかを判断するためのポイントをご紹介します。
- 短期的な転勤の見通しであれば、空き家として維持、もしくは期限付きの定期借家契約で賃貸に出すことをお勧めします。帰任した時に戻ってくる家があるのは、長期的な住居費用の面で大きなメリットだからです。
この場合、転勤中にローン返済・維持費用・税金の負担に耐えられるかが重要です。 - 長期的な転勤の見通しであれば、売却することも検討の余地があります。空き家にしていても維持費用がかかったり、賃貸で期待する収益が得られない可能性があるためです。
この場合、売却による収入と、住宅ローン残高を完済するための費用とのバランスが重要です。
では実際に、転勤時の持ち家をどうするかで、将来の家計はどうなるのでしょうか?この記事では次のシナリオの設定条件でシミュレーションしてみます。
シミュレーション
〜転勤で持ち家をどうするかで将来の家計はどうなる?〜
シナリオの設定条件
- 家族条件
家族条件 | 歳(現在) | 生計から外れる |
夫 | 36 | 100歳で死亡 |
妻 | 33 | 100歳で死亡 |
第1子 | 6 | 23歳で独立 |
第2子 | 3 | 23歳で独立 |
- 比較条件
比較条件 | ケース1 | ケース2 | ケース3 |
持ち家どうする? | 妻子が住み続け、夫が単身赴任 | 賃貸に出し、家族で引越し | 売却し、家族で引越し |
持ち家の活用による収益 | - | 平均48万円/年 (96万円/年を期待していたが空室となることが多く、平均的に半分) | 売却益3000万円(夫37歳) |
転勤後に増える住居費・生活費など | 夫の単身家賃・生活費・往復交通費で11万円/月増 | 家族の引っ越し先の家賃 7万円/月(夫37-40歳) 12万円/月(夫41-60歳) | 家族の引っ越し先の家賃 7万円/月(夫37-40歳) 2軒目の持ち家(3436万円)を購入(夫41歳) |
- その他の詳細データはこちらを参照。
1.単身赴任(家族が持ち家に残る)
ではまず、夫が単身赴任し、家族が持ち家に残った場合について、シミュレーションしてみます。このケースでは、家族の生活環境を維持するため、夫は単身赴任で一人暮らしをし、毎週末、家族に会いに戻ることにしたのです。
当初はすぐに帰任できると期待していましたが、結局ズルズルと転勤先で定年まで働き続けることになった場合、将来の家計はどうなるでしょうか?

なんと、子どもの教育費がかかる50代で、大幅に資金ショートしてしまいました。やはり二重の生活費や往復の交通費が長期的にかかり続けると、家計に大きな負担になってしまいました。夫の努力にも関わらず…。
2.賃貸に出す(家族で引越し)
では次に、持ち家を賃貸に出して、家族で引っ越した場合についてシミュレーションしてみます。このケースでは、転勤後に家族で賃貸暮らしをしたのです。
当初は数年後に帰任でき、持ち家に戻れると期待していましたが、結局ズルズル残ることになり…。子どもが大きくなったので広い賃貸に引っ越し、結局そこに定年まで過ごすことになりました。
しかも、持ち家の賃貸も空室期間が多くあり、平均的に期待した半分しか収益を得られず…。
この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?

おっと、この場合も厳しい50代が待っていますね。賃貸で借り手が思うように付かないリスクも考慮しておくべきでした。
3.売却する(家族で引越し)
では最後に、持ち家を売却し、家族で引っ越した場合について、シミュレーションしてみます。
このケースでは、転勤後にしばらく家族で賃貸で過ごしたところで、このまま帰任する可能性は低いと考えて、夫41歳で2軒目の持ち家の購入を決断したのです。
- 1軒目の持ち家は3800万円で購入(夫36歳)→売却して手元に残ったのは3000万円(夫37歳)
- 2軒目の持ち家は3436万円で購入(夫41歳)
こんな大きな決断をした場合、将来の家計はどうなるでしょうか?

おおっ、これなら教育費ピークの50代もゆとりを持って乗り超えることができそうですね。しかも、2軒目の持ち家があるおかげで、老後の住居にも困りません。早めに1軒目を売却、2軒目の購入を決断して正解でした。
子どもの転校を伴い、生活環境が変わることで家族への負担も大きかったものの、長期的には家族で安心して暮らしていくことができそうですね。
まとめ
転勤時の持ち家をどうするかは、家計や生活に大きな影響を与える重要な課題です。
「売却」「賃貸」「維持」「単身赴任」などの選択肢の中から、家族の状況や転勤の期間、将来の住まいの計画を踏まえて、最適な方法を選ぶことが大切です。それぞれの選択肢のメリットとデメリットを理解し、家計の面からも長期的な視点で検討することをお勧めします。
持ち家を適切に活用することで、転勤による不安や経済的な負担を軽減し、家族にとってより良い生活を実現しましょう。
とはいえ、個人の価値観や諸事情により、どうしても空き家のまま維持せざるを得ないケースや、売却や賃貸により期待する収益を得られないケースもあります。その場合、将来資金ショートしそうになってから慌てないように厳しく見積もり、対策を考えておくことをお勧めします。生活費、教育費、働き方、投資、保険、節税など、様々な面での見直し方法がありますので、総合的に見直すと良いでしょう。