遺産分割が進まないなら期限の近いものを先に一部分割?残余遺産への影響にも注意!
「遺産分割が進まない・・・。」相続は調べたり決めたりすることが多く、気が遠くなりますね。
「遺産は何がどれだけ?」「どう分割?」「家財の取捨選択は?」「故人が未払の費用や税金は?」「各種契約は?」・・・等々。
そんな中、一部の遺産だけでも先に相続を進めたいと思うこともあるでしょう。特に、期限が近いものについては焦りますね。例えば、こんなケースがあります。
- 入院費用や葬儀関連費用、相続税を支払うため、故人の現金を早く相続したい!
- 故人の車の車検が来月には切れる!誰も乗らないので、早く名義を変えて売却したい!
- 不動産を維持したい相続人に名義を変え、他の相続人との共有状態を早く解消したい!
そんな場合、一部の遺産だけでも先に分割をすることは可能なのでしょうか?
また、残りの遺産(残余遺産)について、揉める原因とならないのでしょうか?
特に、不動産など分けにくくて大きな遺産がある場合、火種になりかねません。
・遺産全体の分割方針がすぐには決まらない場合 ・遺産の全体像が不明な場合 ・一部の遺産を先に分割したい場合
遺産分割が進まないなら?
期限の近いものを先に一部分割することをお勧めします。
遺産全体の分割方針が決まるのに時間がかかる場合、それを待っていると、早く分割したいものまでズルズルと分割できずに困ってしまうからです。
民法上は一部分割できる?
次の引用のとおり、協議による一部分割や、家庭裁判所への一部分割の請求をすることができます。(ただし、他の共同相続人の利益を害する場合は、請求できないこともあります。)
(遺産の分割の協議又は審判)
出典:e-Govポータル(https://elaws.e-gov.go.jp/)(2024年1月27日アクセス、太字・黄色マーカーは筆者)
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
では、後で揉めないように、一部分割をする際にはどんな注意が必要なのでしょうか?
一部分割の注意点
一部分割をする場合でも、次の点に注意することが重要です。
- 遺産の全体像を把握しておくこと。
(金融機関に残高証明書を発行してもらうなど) - 残余遺産への影響について、相続人間で合意すること。
(一部分割時の遺産分割協議書に合意内容を記載する)
なぜこれらが重要なのでしょうか?次の例で見てみましょう。
一部分割で揉める例
遺産の中でも特に大きく、分けにくいのが不動産です。次の例では、親が一人暮らししていた実家について、相続人である姉と弟の意見が異なっています。
思い出の家をすぐに売るなんて嫌!職場から遠くなるけど、自分が住めそうかゆっくり考えたいわ!
いやいや、そんなのんきなことを言っていたら維持費用もかかるし、高齢化が進むこの近辺ではますます価値も下がってしまう。一刻も早く売らないと!
それなら家は先に私がもらって、じっくり考えるわ。維持や処分にも責任を持つからさ。
と、一部分割をするところまでは良いかもしれません。
しかし、思ったほど残余遺産(現金)がないことが後で分かったらどうでしょうか?
家は姉さんがもらったのだから、残りの現金は全部、俺がもらうよ!
えっ、ちょっと待って!家の維持のために現金も必要だから、私も半分はもらわないと困るわ!
と、こんな具合になりかねませんね。
では、このように姉には想定外の結果となった場合、姉の将来の家計はどうなるのでしょうか?この記事では、次のシナリオの設定条件でシミュレーションしてみます。
シミュレーション
〜一部分割で残余遺産に影響するとどうなる?〜
シナリオの設定条件
- 相続関係
- 一部分割時の状況
- 一部分割により、とりあえず妻が実家(家・土地)を相続した。
- その時点の残余遺産としては、現金と有価証券があった。
- シミュレーション対象の家族
家族条件 | 歳(現在) | 生計から外れる |
夫 | 46 | 100歳で死亡 |
妻(相続人) | 43 | 100歳で死亡 |
第1子 | 16 | 23歳で独立 |
第2子 | 13 | 23歳で独立 |
- その他の詳細データはこちらを参照。
1. 残余遺産のうち現金1000万円を相続
ではまず、当初の妻の目論見として、次の表のように期待していたケースについて、シミュレーションしてみます。
遺産 | 評価額 | 当初の妻の目論見 |
実家(土地・家屋) | 2000万円 | 妻がすべて相続 |
現金 | 約2000万円と期待 (ある時点の通帳の記帳を見て判断。 相続発生時の正確な残高は未確認。) | 妻と妻の弟で半分(1000万円)ずつ |
有価証券 | ?000万円 | 妻の弟がすべて相続 |
少なくとも現金(2000万円ほどあると思っていた)については、妻の弟と半分(1000万円)ずつ相続できると期待していたのです。この場合、将来の家計はどうなるのでしょうか?
1000万円の現金も相続できれば、家の維持費用もある程度賄うことができ、一生安心して暮らしていけそうですね。
2. 残余遺産はすべて弟が相続すると?
その後、現金と有価証券について、金融機関に残高証明書を発行してもらったところ、それぞれ1000万円、合計2000万円相当だったものとします。それを知った妻の弟は、「姉さんが2000万円の家をもらったんだから、俺は残りの2000万円相当を貰うのが公平だろ!」と主張。
遺産 | 評価額 | 妻の弟の主張 |
実家(土地・家屋) | 2000万円 | 妻がすべて相続 |
現金 | 1000万円 (残高証明の結果) | 妻の弟がすべて相続 |
有価証券 | 1000万円 (残高証明の結果) | 妻の弟がすべて相続 |
さて、妻の弟の主張どおりにする場合、姉の将来の家計はどうなるのでしょうか?
なんと、老後に資金ショートしてしまいました。こんなことなら、うかつに実家だけ一部分割するのではなかったと後悔しても、後の祭りです。一部分割するときには、あらかじめ残余財産を把握し、影響についての合意をしておくべきでしたね。
まとめ
遺産分割が思うように進まない場合、期限のあるものから先に一部分割することをお勧めします。遺産全体の分割方針が決まらないがために、一部の遺産に関する期限を逃しては困るからです。
ただし、後で揉めないように、次の点に注意する必要があります。
- 遺産の全体像を把握しておくこと。
(金融機関に残高証明書を発行してもらうなど) - 残余遺産への影響について、相続人間で合意すること。
(一部分割時の遺産分割協議書に合意内容を記載する)
各相続人にも自分の生活がありますので、将来の家計の見通しを立てる必要がありますね。
とはいえ、個人の価値観や諸事情により、どうしても遺産の全体像を把握しきれない状況で、一部の遺産の分割を優先せざるを得ないケースもあります。その場合、遺産の全体像が見えてきてから慌てないように厳しく見積もり、対策を考えておくことをお勧めします。生活費、教育費、働き方、投資、保険、節税など、様々な面での見直し方法がありますので、総合的に見直すと良いでしょう。