重い実家の維持費用!家計に優しく円満な相続は?
「先祖代々の土地を赤の他人に渡さない!」という親の思いもあり、たとえ実家に戻って住む予定はなくても「思い出の詰まった実家を別荘として使おう!」という利用の仕方もあるかもしれません。
しかし、実家にかかり続ける維持費用も馬鹿にならず、家計には大きな痛手になったらどうでしょうか?固定資産税・都市計画税のような固定費だけでなく、修繕費などの臨時費用の積み立ても必要で、次の世代に相続するまできちんと維持していくにはざっと◯千万円!自分たちの老後の生活費の工面だけで精一杯なのに・・・。
そこで親の生前に兄弟とも一緒に話し合い、親の現金遺産は相続後も実家の維持費用に当てよう!という意見で一致したとします。
しかし、他にも悩ましい問題が・・・。
- 相続税の負担に耐えられるのだろうか?
- 「実家をもらえる受益」と「維持する責任」を兄弟で不公平にならないように分けられるだろうか?
さて、どのように相続するのが良いのでしょうか?
実家の相続に関して
・相続税や維持費用の家計への影響
・相続税対策で円満相続するヒント
具体的には次の方法でこれらを見ます。
- 将来の金融資産残高の推移をシミュレーション
- 小規模宅地等の特例による相続税の削減効果
相続設計は被相続人の意思はもとより、各相続人の利害や家庭事情も絡んで難しいですが、各相続人の家計が安心できるように工夫して円満な相続を進めたいですね。
相続した空き家の利用方法
相続した住宅をどのように利用しているのでしょうか?
国土交通省住宅局の「令和元年空き家所有者実態調査」をもとに作成した以下の表によると、半分近くが何らかの形(別荘、セカンドハウス、物置など)で利用しています。
相続した空き家の利用方法 | 割合 (%) |
買い手を探している | 12.7% |
借り手を探している | 3.3% |
寄付・贈与先を探している | 0.9% |
リフォームまたは建て替え予定のため利用していない | 3.5% |
取り壊し予定のため利用していない | 13.7% |
別荘やセカンドハウスなどとして利用 | 23.7% |
転勤、入院などで居住者が長期不在だが将来戻る予定のため物置として利用 | 1.3% |
上記以外の物置として利用 | 23.7% |
その他 | 13.6% |
不明 | 2.0% |
不詳 | 1.6% |
合計 | 100.0% |
利用(黄色)の合計 | 48.7% |
「令和元年空き家所有者実態調査」-「取得方法別の利用現況」(国土交通省)(※)を加工して作成 |
※https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf
普段は誰も居住していないのに、これだけ多くの方が何らかの形で利用しているのは驚きですね。また、同調査によると、空き家の居住者のいない期間(相続で取得した場合)は「20 年以上」が 20.2%と最も多いことからも、簡単には手放せない事情や思いがあるのではないでしょうか?
一方、空き家の維持費用も馬鹿にならないはずです。次のシナリオでは、それなりに維持費用をかけた場合で、相続の仕方による家計への影響と、対策の効果についてシミュレーションしてみます。
シミュレーション
シナリオの設定条件
- 家族条件
家族条件 | 歳(現在) | 生計から外れる |
夫 | 30 | 100歳で死亡 |
妻 | 27 | 100歳で死亡 |
第1子 | 0 | 23歳で独立 |
第2子 | -3 | 23歳で独立 |
なお、夫は夫の父および弟と、次の相続関係があるものとします。
- 相続関係とシミュレーション対象
- 相続条件
- 夫の母は既に他界。
- 夫の父は実家で一人暮らし。
- 夫の父に相続が発生した場合の財産は実家1億円(ほぼ土地価格)と現金2,000万円で、相続人は夫と夫の弟の二人。
- 実家は広い庭付きで、土地面積は330m2。
- 夫43歳の時に夫の父が亡くなり、相続発生。
- 維持費用は相続人の生涯に渡り2,000万円程度(夫30歳時点の評価額)かける。
- 現金遺産2,000万円を実家の維持費用に当てて欲しいとの父の意思に従うことで、弟とも意見が一致。
- 夫はマイホームを購入し、自分の家族と暮らしている。仮に実家を相続しても実家に移り住む予定はない。
- 夫の弟は遠方の賃貸で別居しており、仮に実家を相続しても、現役中は移り住む予定はない。将来は状況次第。
- 不動産の価格には相続税評価額、実勢価格など種類があるが、ここでは単純化のため違いを考慮しない。
- その他の詳細データはこちらを参照。
1. 夫が相続して老後資金ショート
まず、夫が実家も現金もすべて相続・維持する場合、どうなるでしょうか?夫の弟は、兄が維持してくれるならと相続放棄するものとします。
この場合、夫は現金2,000万円を相続したにもかかわらず、相続税が1,160万円もかかってしまい、結局、維持費用に回せる現金は840万円しか残りませんね。
計算項目 | 計算 | 結果 |
課税価格の合計 | 実家1億円 + 現金2,000万円 小規模宅地の特例適用なし | 1億2,000万円 |
基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 * 2人 | 4,200万円 |
課税遺産総額 | 1億2,000万円 – 4,200万円 | 7,800万円 |
各人の法定相続分相当 | 7,800万円 * 1/2 | 3,900万円 |
前項相当の相続税額 | 3,900万円 * 20% - 200万円 | 580万円 |
相続税の総額 | 580万円 * 2人 | 1,160万円 |
夫の相続税 | 1,160万円 * 100% | 1,160万円 |
夫の相続現金残り | 2,000万円 – 1,160万円 | 840万円 |
夫の弟の相続税 | 1,160万円 * 0% | 0万円 |
将来家計のシミュレーションをしてみると、次のようになります。
相続した現金の残りだけでは維持費用をカバーできず、老後費用もどんどん取り崩し、家計が資金ショートしてしまいます。
2. 兄弟で半分ずつ相続したが不満
では、夫と弟が実家も現金も半分ずつ相続し、維持費用も持分に応じて半分ずつ負担しよう!とする場合はどうなるでしょうか?
実はこの場合、賃貸で暮らしている弟(家なき子)だけが、相続税を計算する際の課税価格の軽減 (小規模宅地等の特例) が適用できる可能性があります。(マイホームを所有して住んでいる夫は特例の適用条件を満たしません。)
弟は他の条件も満たして課税価格を軽減できた場合、次のようになります。
計算項目 | 計算 | 結果 |
課税価格の合計 | 夫:実家持分5,000万円+現金1,000万円 = 6,000万円 (弟分と合わせた全体の75%) 夫の弟:実家持分5,000万円 * 20% + 1,000万円 = 2,000万円 (夫分と合わせた全体の25%) 弟の分だけ特例適用あり | 8,000万円 |
基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 * 2人 | 4,200万円 |
課税遺産総額 | 8,000万円 – 4,200万円 | 3,800万円 |
各人の法定相続分相当 | 3,800万円 * 1/2 | 1,900万円 |
前項相当の相続税額 | 1,900万円 * 15% - 50万円 | 235万円 |
相続税の総額 | 235万円 * 2人 | 470万円 |
夫の相続税 | 470万円 * 75% | 352.5万円 |
夫の相続した現金の残り | 1,000万円 – 352.5万円 | 647.5万円 |
夫の弟の相続税 | 470万円 * 25% | 117.5万円 |
夫の弟の相続現金残り | 1,000万円 – 117.5万円 | 882.5万円 |
夫の相続税は352.5万円となり、相続する現金1,000万円から差し引いた残りは647.5万円だけですね。
一方、夫の弟は相続税が117.5万円、相続する現金1,000万円から差し引いた残りは882.5万円となります。
夫からすると、「あれ?現金を1000万円ずつ受取り、それを使って平等に維持費用を負担するはずだったのでは・・・。」と不公平感を感じるかもしれません。
逆に夫の弟からすると、家なき子の自分が優遇されるべきと思うでしょう。
夫の世帯の将来家計をシミュレーションしてみると、次のようになります。
老後に実家の維持費用の出費が続き、老後費用も少し心もとないですね。持分に応じて半分ずつ負担するといっても、相続した現金でカバーできる額が異なりますので、夫の感情としては受け入れがたいかもしれません。
また、維持のための費用や労力をどちらがどのように負担するかや、後の世代への相続関係も複雑になりそうですね。
3. 夫の弟が相続して安心・円満
では、夫の弟が実家も現金もすべて相続・維持しようとする場合、どうなるでしょうか?夫は、弟が維持してくれるならと相続放棄するものとします。
計算項目 | 計算 | 結果 |
課税価格の合計 | 実家1億円 * 20% + 現金2,000万円 小規模宅地の特例適用なし | 4,000万円 |
基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 * 2人 | 4,200万円 |
課税遺産総額 | 4,000万円 – 4,200万円 | -200万円 |
相続税の総額 | なし | 0万円 |
この場合、実家の土地の全てに小規模宅地等の特例が適用されれば、大幅に課税価格を削減することができます。次の計算の結果、課税価格の合計は基礎控除内で収まり、相続税がかかりません。そのため、相続した現金2,000万円も全額維持費用に回すことができ、弟の経済的不安も和らぐでしょう。さらに弟は将来の状況により、実家に移り住むという選択肢も可能になります。
一方、相続放棄した夫の家計のシミュレーションをすると、相続関係で出入りするお金はありませんので、元々の人生設計に問題なければ、安心して一生を過ごせるでしょう。
まとめ
住むつもりのない実家でも、相続して別荘にしよう!と考えたものの、かかり続ける維持費用が、家計の痛手になるのは避けたいですね。この記事では、小規模宅地等の特例の、家なき子に優しい一面を見てみましたが、うまく活用すれば、他の相続人の家計にも優しくなり、結果として円満な相続につなげられるかもしれませんね。
とはいえ、個人の価値観や諸事情により、特例の適用ができなくても実家の相続・維持を優先せざるを得ないケースもあります。その場合、その後の維持費用の負担で耐えられなくなってから慌てないように厳しく見積もり、対策を考えておくことをお勧めします。生活費、教育費、働き方、投資、保険、節税など、様々な面での見直し方法がありますので、総合的に見直すと良いでしょう。
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