親を扶養に入れる?同居vs別居?税金と社会保険のメリットとデメリット
「別居の親を扶養に入れるのがオトク?やはり同居が必要?」とお悩みではありませんか?
税金や社会保険にどう影響するのか、また、親との同居や別居によって、家計や生活がどう変わるのか、不安や疑問を抱えている方も多いでしょう。
この記事では、親を扶養に入れる際の税金と社会保険の面でのメリットとデメリットを詳細に比較するとともに、同居と別居の判断ポイントについても具体的に解説します。
親の収入や生活費、家族の状況など、様々な要素を考慮しながらベストな選択をするには、一体どうしたらよいのでしょうか?
・親を扶養に入れるメリットとデメリット
・税金と社会保険料、さらに家計に与える影響
・別居の親と同居する必要性
二種類の「親を扶養に入れる」の意味
「親を扶養に入れる」には、税金と社会保険の二種類の意味合いがあります。これらの違いを意識して、メリット・デメリットを理解することが重要です。
- 税金(所得税・住民税)の扶養に入れる
税負担を軽減できる場合があります。 - 社会保険の扶養に入れる
健康保険や介護保険の保険料負担が変わる場合があります。
親を扶養に入れるべきか?
親を扶養に入れるべきかどうかは、一律の基準ではなく、個々の状況に応じた判断が必要です。
税金や社会保険の扶養条件は複雑で、同居や別居の選択、親と子の収入など、さまざまな要素が関係するからです。さらに、生活環境や家族関係、親の健康状態や要介護状況などの個人的な状況も考慮が必要です。
これらを総合的に考えて、自分にとってのメリットとデメリットを理解して判断することが大切です。
親を扶養に入れるメリットとデメリットを徹底解説!
メリット
- 税金(所得税・住民税)
一定の条件で親を扶養に入れることで所得税や住民税の扶養控除を受けることができます。控除される金額は年齢、同居vs別居、所得税・住民税で異なります。
例えば所得税の場合、次のような控除額となります。
参考:「No.1180 扶養控除」(国税庁、タックスアンサー、2024/8/31アクセス)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm- 一般の控除対象扶養親族(70歳未満):38万円
- 老人扶養親族(70歳以上)
- 同居老親等以外の者:48万円
- 同居老親等:58万円
- 社会保険
社会保険のうち、ここではメリットの大きい公的医療保険に触れます。
子が加入する健康保険の被扶養者となることで、保険料負担を抑えることができます。
例えば、それまで国民健康保険に加入していた親が、子の健康保険の被扶養者になった場合、親は国民健康保険の保険料負担が無くなります。また、子側も健康保険の保険料負担が増えるわけではありません。
デメリット
扶養に入れることで、社会保険料に関して親がそれまで受けていた優遇を受けられなくなる場合があります。
- 介護保険料
住民税非課税の親を扶養に入れる場合、子が住民税課税であれば、介護保険料が上がることがあります。
参考:「介護保険の1号保険料の低所得者軽減強化」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/iryokaigo06.pdf - 後期高齢者医療保険料(75歳以上)
保険料には所得割と均等割がありますが、このうち均等割の部分について、世帯主である子の所得の影響で、軽減の優遇を受けられなくなることがあります。
参考:「後期高齢者医療の保険料について」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/001255769.pdf
税金と社会保険料の優遇の条件
- 税金(所得税・住民税)
- そもそも親の所得が多い場合、扶養に入れることはできません。
所得税の場合、扶養に入れるために親の所得は48万円以下である必要があります。
参考:タックスアンサー(国税庁、2024/8/31アクセス)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/yogo/senmon.htm#word7
例えば65歳以上の親の収入が公的年金のみの場合、年収158万円以下である必要があります。
なお、遺族年金は非課税のため、税金がかかりません。
参考:「非課税所得(遺族厚生年金)と扶養控除」(国税庁、確定申告書作成コーナー)
https://www.keisan.nta.go.jp/r5yokuaru/cat2/cat22/cat22b/cid031.html
- そもそも親の所得が多い場合、扶養に入れることはできません。
- 健康保険
- 75歳以上は後期高齢者医療保険に加入することになるため、子が加入している健康保険の被保険者になることはできません。
- 60歳以上の親が被扶養者になるには、年収が180万円未満、かつ、被保険者(子)の年収の2分の1未満という条件があります。
参考:「被扶養者とは?」(全国健康保険協会)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3163/1959-230/
別居の親と同居する必要性
制度上の必要性
制度上は必ずしも同居する必要はありません。別居でも一定の条件のもとで、親を扶養に入れることができるからです。
- 税金
所得税の場合、別居の親に常に生活費や療養費を送金している場合には同一生計とみなされることがあります。
参考:「No.1180 扶養控除」(国税庁、タックスアンサー、2024/8/31アクセス)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180_qa.htm - 健康保険
被保険者に生計を維持されている直系尊属は、必ずしも同居している必要はありません。
参考:「被扶養者とは?」(全国健康保険協会)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3163/1959-230/
家計の面での必要性
親も含めた家計のやりくりのために、同居が必要になることがあります。別居していると、それぞれの住宅費や水道光熱費、各種サービスの契約などのコストが二重に発生し、負担が大きくなるためです。
つまり、同居することで、それらの生活コストを一つにまとめ、全体の支出を抑えることができます。
もちろん、同居によって新たな支出が生じる場合もありますが、親の年金が同じ家計の収入として加わることで、トータルで収支のバランスが取れればよいのです。
では実際に、親を扶養に入れたり、親と同居したりすることで、将来の家計はどうなるのでしょうか?この記事では、次のシナリオの設定条件でシミュレーションしてみます。
シミュレーション
〜親を扶養に入れる・同居すると将来の家計は?〜
シナリオの設定条件
- 家族条件
家族条件 | 歳(現在) | 生計 |
夫 | 40 | 100歳で死亡 |
妻 | 37 | 100歳で死亡 |
第1子 | 10 | 23歳で独立 |
第2子 | 7 | 23歳で独立 |
老親(夫の母) | 65 | ケース1では生計外(親は別生計)、ケース2,3では同一生計 |
- 老親(夫の母)の年収等
- 年収:合計150万円
- 自身の老齢基礎年金:81万円
- 夫の父(故人)の遺族厚生年金(非課税):69万円
- 所得税、住民税はゼロ
(65歳以上は公的年金等控除額が最低110万円であるため、老齢基礎年金81万円分も課税されない。) - 75歳以降は後期高齢者医療保険料(約5万円)が年金から差し引かれる。
- 年収:合計150万円
- 比較条件
比較条件 | ケース1 | ケース2 | ケース3 |
扶養 | 扶養に入れない(手続きをしない) | 扶養に入れる(手続きする) | 扶養に入れる(手続きする) |
生計 | 別生計(親の年金収入は計上せず) | 同一生計(親の年金収入も計上) | 同一生計(親の年金収入も計上) |
同居/別居 | 別居(親の賃貸料金は計上せず) | 別居(親の賃貸料金96万円/年を同じ家計に計上) | 同居 |
別居(ケース1、2)の仕送り、または、同居による生活費増(ケース3) | ・老親65-74歳:160万円/年 ・老親75-85歳:140万円/年 | ||
所得税の扶養控除 | なし | ・65-69歳:扶養控除38万 ・70~85歳:老人扶養控除(別居)48万 | ・65-69歳:扶養控除38万 ・70~85歳:老人扶養控除(同居)58万 |
住民税の扶養控除 | なし | ・65-69歳:扶養控除33万 ・70~85歳:老人扶養控除(別居)38万 | ・65-69歳:扶養控除33万 ・70~85歳:老人扶養控除(同居)45万 |
- その他の詳細データはこちらを参照。
1. 別居の親を扶養に入れないと
ではまず、別居の親を扶養に入れなかった場合について、シミュレーションしてみます。
このケースでは、親に仕送りしていたにもかかわらず、扶養に入れる条件やメリット・デメリットを理解不足で、扶養に入れるのを躊躇したのです。
この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
なんと、親への仕送り負担が大きく、あっという間に資金ショートしてしまいました。こんなことなら扶養に入れておけば良かったと後悔するかもしれません。
2. 別居の親を扶養に入れて仕送り
では次に、親を別居のまま扶養に入れて仕送りをした場合について、シミュレーションしてみます。
このケースでは、親と同一生計となり、扶養控除で税負担が軽減されるだけでなく、親の年金収入が家計に加わることにも期待したのです。
この場合、将来の家計はどうなるでしょうか?
おっ、ケース1よりはだいぶマシになりました。しかし、それでも50代の自分の子の教育費ピークの時期に一気に貯金を取り崩し、資金ショートしてしまいます。
たとえ親を扶養に入れて税負担が軽減されたり、親の年金収入が同じ家計に加わったとしても、親への仕送りや賃貸料金は、家計にとって大きな負担でしたね。
3. 親と同居して扶養に入れると
では最後に、親と同居して扶養に入れる場合についてシミュレーションしてみます。このケースでは、同居することで様々な生活コストを一つにまとめ、支出を抑えようとしたのです。この場合、将来の家計はどうなるのでしょうか?
おおっ、これなら親の生活費がかかっても、自分の子どもの教育費ピークも乗り越えられますね。
親を扶養に入れて節税し、年金収入を同じ家計に入れ、さらに親の賃貸料金をカットできたのは大きな効果でした。家族関係や生活の質も良好であれば何よりです。
まとめ
親を扶養に入れるかどうかや、同居と別居のどちらが良いかについては、一律の答えがあるわけではありません。税金や社会保険の優遇制度の適用条件は複雑で、家庭環境や親子関係も様々だからです。
それぞれのメリットとデメリットをしっかりと理解し、親を含む家計を維持できる見通しを立てることが重要です。そして最終的には、親の健康状態、家族の状況、生活の質など個人的な状況も考慮して、ベストな判断しましょう。
とはいえ、家計にとってはメリットであっても、個人の価値観や諸事情により、どうしても扶養に入れるのが難しい、別居せざるを得ないといったケースもあります。その場合、親への仕送りの負担に耐えられなくなってから慌てないように厳しく見積もり、対策を考えておくことをお勧めします。生活費、教育費、働き方、投資、保険、節税など、様々な面での見直し方法がありますので、総合的に見直すと良いでしょう。